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心のパンツは脱げるのか?

30代のおにー・・・おっさんが心のパンツを脱いで話しかけるよ。

子供を産めなかった女の人生は空白なのか?映画『四十九日のレシピ』感想

映画

未見の方へ

子供を埋めなかった女の人生は空白ばかりで何が残るのだろう?

永作博美演じる百合子は専業主婦。子供に恵まれず不妊治療をしており、介護が必要な義母と同居している。

映画は夫の浩之(原田泰造)の不倫相手から「浩之の子供を宿している。浩之は百合子と別れる決心ができない」という旨の電話を受けたところからはじまる。

傷心の百合子は結婚指輪と離婚届を置いて帰郷する。

妻を亡くし生きる気力を失った父と謎の若い女性

実家には父がいる。継母を突然亡くし気力の亡くした百合子の父親。熱田良平(石橋蓮司

汚れた部屋。寝ころぶ良平。思い浮かべるのは妻が亡くなる直前の朝のやりとり。

釣りに出かける良平が妻から受け取った弁当はソースが染みており手が汚れる。

「なんだこりゃ」と大声を出し、対処しようとした妻に「もういらないよ」と言葉を吐き捨てる。

多分。これが妻との最後の会話だったのだろう。

百合子が帰郷を決意しようとしているその頃、無気力な良平の元にイモと名乗る若い女性が押しかけてきた。亡き妻乙美に頼まれて乙美の四十九日が済むまで良平の面倒をみるという。

四十九日の大宴会

乙美は良平と百合子にレシピを残していた。レシピには四十九日にはみんなで大宴会と残されている。乙美の願い。イモはその大宴会までのお手伝いであり、レシピの存在を伝えにきた。帰郷した百合子に加えイモ同じく乙美に世話になった日系ブラジル人のハル(岡田将生)も加わり乙美のレシピに導かれるように4人で四十九日の大宴会の準備を始める。

当初良平は「四十九日の法要などやらん」と言っていたのだが乙美の残したレシピにある掃除や洗濯を自分でするようになり次第に亡き妻の思いを叶えようとしていくのだ。

父娘の後悔

乙美は良平の再婚相手であり、百合子の継母である。

良平の心には乙美のお弁当を持っていかなかった後悔が残っており、百合子の記憶には母として動物園で紹介された時に乙美の戸惑いから乙美が持ってきてくれた手作りの弁当を叩き落としたシーンが今も残っている。

ちなみに百合子は乙美をオッカ(おとみお母さんの略)で呼んでおりお母さんとは呼んでいない。

乙美の年表。空白。

四十九日の大宴会には乙美の年表を貼り出そうという事になり、年表を用意する良平と百合子。出来上がった年表は空白ばかり。力なく百合子はつぶやく。

「子供を産めなかった女の人生は空白ばかりなのね」

百合子自身の現状と未来を重ね合わせたのだろう。

良平と百合子は乙美の空白を埋めるべく、乙美のこれまでを探そうとする。

この物語は

この物語は亡き妻であり亡き母(継母)である乙美の残したレシピに導かれながら、良平と百合子が再生していく物語である。が、特に乙美の人生とはなんだったのか?をキーとしながら、現在、乙美と同じく子供を産めなかった女性になる可能性がある百合子がどのように自分の未来を見据えるかが上手に描かれていると思います。

本当に子供を産めなかった人の人生は空白が多く虚しいものなのか?

乙美の残したレシピと四十九日の大宴会はどうなっていくのか?

父娘の後悔は昇華されるのか?

観る人の心に人生って何かな?と考えるきっかけをくれる映画ですので、是非観て欲しいです。予告編の下からネタバレ書きます。

 

 

ネタバレ含む徒然なる感想

若い頃の乙美を演じた荻野友里さんが素晴らしかった。

回想シーンで出てくる若い頃の乙美。自分自身も戦争で親を亡くしており、母親に育てられていないため母親になるという事がどういう事かわからず、それでも百合子の母になる事を決意する。

その若い乙美を演じた女優さんがとても慈愛に満ちた演技で素敵だなと思ったのです。公式サイトにも役者名がなく調べてみたら荻野友里さんという方でした。

とても印象に残る役者さんでした。

乙美の人生は空白ではない事が乙美がリボンハウスを中心として関わった人たちによって空白だった年表が埋められる事でわかるのですが、それも荻野さんの温かみのある演技によってかと思います。

子供を育てた事がないという描写

中盤。乙美の絵手紙を取りに一度東京に戻る際に夫の浩之およびその不倫相手と会う事になってしまい離婚届を再度書くのですが、浩之は「これは俺と百合子の問題だから離婚届は書かない」と下衆っぷりを発揮します。

そんなシーンを幼い子供の前で繰り広げている事に対して同行していたイモは「子供の前でそんな話するな」と子供を連れだします。百合子も追いかけてきて。不倫相手の最初の子供が今は浩之と不倫相手にとっては邪魔になっている事。イモも子供の頃から母親に男が来た時は外で遊べと同じ境遇だった事が分ったりする場面です。

幼稚園くらいのその子供に百合子は「お腹減った?何か食べよう」とアメリカンドックを買ってあげるのですが、無邪気に食べようとする子供に対して、外に出てきた母親が百合子を一喝。「子供に尖ったものがあるものを食べさせるなんて」と。

そして百合子は自分に子供がいない事で、そういう配慮ができなかったのだと更に傷つき帰郷する事になります。

ちょっとしたシーンですけれど、残酷なまでに子供を育てた事がない無知さというのを百合子にぶつける事で、なんだかんだ言っても母親が強いのだという感じでした。

百合子は産まなかったのではなく、授からなかったのであり、余計に自分が惨めになるシーンとも言えます。

これがあるからこそ、後半にゆくにつれて乙美自身も母親に育てられておらず手さぐりだったこと。お腹を痛めた子供はいなかったがイモやハルをはじめ色んな人たちを慈しみ手助けした事。そしてそれを理解できた時に百合子が前向きになろうとしたことが繋がるシーンなのだと思いました。

ラストの選択は好きじゃない

徹底して一般的な世間の目として子供がいない事を責める叔母に対して百合子は「子供がいなかったからこそわかる喜び、悲しみもあると思います。だから見守ってください」と話します。

子供がいない=惨めな人生。という図式から抜け出し乙美のように前向きな生き方を選択したのだと思います。

叔母に関しては役どころとして世間一般の意見を代弁しており、四十九日の大宴会を途中で退席するも最後にフラダンスを踊りに戻ってきます。

観る人によっては唐突に感じるかもしれませんが、乙美の事を大切に想っていた事。だからこそ四十九日の”大宴会”が乙美の遺言だと知って戻ってきたのだと思います。

四十九日の大宴会が終わり唐突にイモは去っていきます。自分を捨てた親ともう一度絆を結んでみようと。名残惜しさもないように良平と百合子の前から去っていくイモ。そしてそれは自分達が「跳び箱の踏み台」みたいなもので振り返らないでいいのだと理解した良平と百合子がイモを見送り良平が大きな声で「しっかりやれよ!」と叫ぶのもいいシーンだと思います。

映画がここら辺で終われば僕はよかったなぁと思うのですが・・・

最後の最後に浩之が現れ「百合子と一緒に歳をとって生きていきたい」「子供の事は一番に考えたい」「どうしたらいいかわからないけれど、百合子も一緒に考えてくれ」と下衆発言連発。

そしてそれを受け入れる百合子。

ラストはハルから受け継いだ母の車で浩之と共に東京へ帰ってゆくシーンで終わるのですが、僕はこのラストは好きじゃないです。

人生は思うようにいかない。浩之の不倫相手のようなクズ女でも子供ができて、百合子のように一生懸命生きている人間には授からない。

そういう事は当たり前のようにある事だと思うし、そういう理不尽さがあるからこその人生だとは思います。

実際、百合子がとった選択は暗に乙美と同じように自分の子ではないが生まれてくる子供を百合子が育てるんじゃないか?とも受け取れます。

でも、ちょっと待ってほしい。

百合子が乙美から受け取ったバトンは子供がたとえ授からなくても自分の生き方ひとつで沢山の子供になりえるもの(例えばコロッケパン)を得る事ができる。という事なのだと思います。

でも、このラストはあまりにも浩之および介護が必要な浩之の母にとって都合のいい事だけを残して終わったなぁという印象でした。

ラストをファンタジーで終わらせろとはいいません。

ただ乙美の後をついでリボンハウスで働くでもよかったんじゃないかとも思います。(それはそれで乙美の人生と百合子の人生は違うのだから、それでいいのか?っていう考えもありますが)

それでも、浩之との事は終わった事として、前に進んで欲しかったなと思います。

妻は好きだけど、子供ができなから外で子供作ったよ。でも離婚もしないし、俺を許してほしい。子供は認知するけれど、そっから先は一緒に考えて。

俺の永作ちゃんはそんな都合いい女じゃないぞ。ゴラァ

ってなわけでラストは納得していません。

最後に

納得できない箇所もありますし、僕は原作未読なので読んだら印象が変わるのかもしれません。

しかし、この映画はいい映画だと思いました。

人生は理不尽です。でも自分で不幸と思えば不幸だし、前を向いて踏ん張れば何か見つかるかもしれない。それが幸せかはわかりませんが、それでも不幸ではない何かを得る事ができるのだと思います。

良平が一生食べないと言っていたコロッケパン。乙美から別の人に受け継がれていて、良平は美味しいと食べました。

百合子は乙美をオッカではなくお母さんと呼びました。

はじめて乙美にあった動物園でわざと弁当を叩き落とした記憶の後には続きがあって、一緒に手を繋いでキリンを見上げた事。そしてその記憶がとても幸せな記憶として乙美にはあり、百合子も思い出したこと。

今思い出してもいいシーンだなと思います。

あまり話題になってないし、上映している映画館も少ないように感じますが、

多くの人に観てもらいたい佳作だなと思いました。

四十九日のレシピ』★★★★

 

四十九日のレシピ (ポプラ文庫)

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 劇中でも美味しそうな食事が出てきました。そのレシピ集。

四十九日のレシピのレシピ (一般書)

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