思い出の片隅の真ん中で。『横道世之介』
今年の2月に映画『横道世之介』を鑑賞しました。
僕は原作未読で映画を観たのですが、思った以上にはまってしまい、
映画館を出たその足で同じ階にあった本屋さんで原作を買いました。
もうちょっと、この『横道世之介』の世界を詳しく知りたいなと思ったのです。
買った時は勢いがあったのですが、一緒に数冊本を買ってしまい、
悪い癖で積んだままになっており、ようやく本日原作『横道世之介』を読了しました。
この物語は1980年代後半に九州から大学進学で上京してきた横道世之介の1年間の物語です。
僕は90年代後半に上京してきたので、世之介は10歳くらい上の年代の物語ですね。
丁度バブルの時期で若者にも何だか活力があった時代なのかなぁと思います。
世之介は時代こそ80年代ですが、きっと今でもいるであろう、「どこにでもいそうな、あの大学生」です。
特に勉強ができるわけでもない、スポーツ万能なわけでもない。深夜までテレビをみていて、起きれないとわかっているのに1限の授業に出るため
7時30分に目覚ましをかけ、当然のように起きるわけでもなく、そのまま10時間寝て、午後に起きて、そのまま夜中まで起きて・・・
クーラーが部屋になく(80年代だし)、クーラーのある友人の家に夏は入り浸り、夏が終わると疎遠になっている。
なんでもないような日常なんだけれど、大学生という時間が愛おしく貴重だったなぁ
と思わせてくれるような、そんな人物描写がされています。
世之介が状況してから1年の間に出会う人達。そして、原作・映画共に途中で入る、その人々の20年後。
人によっては世之介の名前さえ覚えていない。
でも、ふとした時に思い出す、世之介と過ごした風景。
人のつながりは必ずしも永遠ではないけれど、たった少しの時間でもその思い出の中に確実に残る者として世之介がいるのです。
思い出の片隅の真ん中で彼はいつも笑っている。
素敵なキャッチフレーズだと思います。誰が考えたんだろ?
僕にも大学時代だけ付き合いがあり、そのまま疎遠になってしまった友人、先輩、後輩がいます。
今だったら携帯もあれば、facebookとかのSNSもあるので卒業と共に疎遠になるっていう事はないのかもしれませんが、
僕の時代でさえ携帯電話を持っていた人が半分くらいだったのですから、80年代はもっと連絡を取り合う手段が限られていたと思います。
そして、自分の環境の変化と共に、新しい出会いの中で、新しい関係が作られていき、いつしか疎遠になった人は思い出の片隅にいってしまう。
でも確かにあった世之介との時間を僕たちは観ることになるのです。
原作と映画どっちが先の方がいいか?
原作あっての映像化なのでこの問い方が適切かはわかりませんが、
僕がお勧めするのは映画の方です。
映画自体は160分と長めで、途中、中だるみするなぁという感じもしますが、460ページ強もある原作のエピソードのほとんどを丁寧に映像化しているので
それは仕方ないかなぁとも思います。
それでも”まずは”映画を薦めるのは
映像化された80年代の空気と主演の高良健吾の素晴らしさ
があるかと。
もちろん、世之介の恋人となるお嬢様の与謝野祥子を演じる吉高由里子もいい具合に現実感の無さがマッチしていてよかったです。
世之介が帰省した際の九州の人たちのなまり具合等映像化ならではの世界観の広がりが見えると思います。
その中で描かれる『横道世之介』の世界はとても愛おしくみえるのです。
結果的に映画は原作のエピソードをほとんど拾っているので、映像化されたほうが深く入り込めるんじゃないかと思います。
原作は?
映画を観て不満点がないわけじゃないです。
世之介と関わった人達の20年後に関しては、「いや、お前、これだけ世之介と関わっていて、今は連絡とってねぇの?」とか。
倉持君とか。
そんなちょっと映画では拾いきれなかっただろう、彼らの当時の話や20年後の状況がより深く原作には書かれています。
そして、何より世之介の今(20年後)の出来事とそこに至るであろう学生時代のエピソードが映画ではカットされています。
ただの青春物語ではない。
今日の感想については、未読・未見の人に『横道世之介』に触れる機会があればと思ったので、
ネタバレはかきませんし、映画の予告も貼りません。
予告は見ないで映画を観たほうがいいです。
世之介の過ごした大学1年生の時間とその20年後の世界に何があるのか?予想はしないでみる方がいいと思います。
ちょっと疎遠になった大学時代の友人達に久しぶりに会ってみようかな?と思わせてくれる作品でした。
『横道世之介』★★★
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