鑑賞してから1週間程経ってしまったのですが、去年映画が好きな方々の話題にあがっていた
『クロニクル』が首都圏2週間限定の上映になったので観てきました。
※その後、首都圏外にも拡大されているようです。
基本的に高校生3人が超能力を手に入れるという設定以外は頭に入れずに観に行ったのですが、
思いのほかよかったです。
というより痛かったです。
主人公はアンドリュー。
病気で薬がないと死んでしまうような状態の母親と仕事で怪我をして酒浸り、暴力も振るう父親という家庭環境の中、学校でも苛められ、本当にぱっとしません。
彼はビデオカメラを回して自分の周りを撮影する事で、外の世界に対して、撮影者になることで折り合いをつけて生きていこうとしている感じです。
詳しい感想を書こうかとも思ったのですが、ちょっと気力がないので、
この映画は最終的にアンドリューがダークサイドに落っこちてしまう話なのですけれど、
要は「愛は疑ったら破綻する」って事かと思いました。
アンドリューと共に超能力を得たのは、従兄のマット。学校の人気者スティーヴ。
彼ら3人は超能力を得た事でとても親密になっていきます。
従兄のマットはちょい悪というか独自の世界を持っていて、
スティーヴは学校の人気者。
彼らにとって超能力は1+1みたいな感じなのですね。
対して、いけてないアンドリューにとっては0+1なのです。
加算されるのは同じ1なのですけれど、アンドリューにとっては秘密を共有して親密になったはずの2人は既に1を持っている人なのです。
そしてマットもスティーヴも最初から1を持っている。という自覚はないし、アンドリューに対して、優越感もないのです。でもアンドリューはね。ダメなんですよ。
気が付かないんです。超能力を得た事で1が加算されたけれど、元が0だと思い込んでいるので。
マットとスティーヴが親密な友人になったことで、アンドリューも1+1になっていたことを。
ずっと自分は0だと思うから、友達になったはずの2人は「超能力を得たからこそ、親密になれた」から。
「友達になるきっかけや順序に拘ってしまったために、大きな見落としをする」んです。
物語の途中。超能力を得た3人は自分の体を浮遊させて空の中で遊びまわります。
飛行機に当たりそうになって死にそうになりつつも、最高の時間を過ごすのです。
深夜。3人が一緒に寝泊まりしているシーンで従兄のマットが言います。
「今日は今までの人生で最高の1日だった」と。マットは心からそういっているのです。
そしてアンドリューは若干間が空いてから「僕もだよ」といいます。
穿った見かたかもしれませんが、僕はこのシーンが印象に残っていて、
「あ、アンドリューはマットの行ってる事、わかってないな」って思ったんですよね。
このシーンがあったからこそ、僕にとっては終盤のマットとの対決で「この力がなかったら、仲よくなんてならなかったくせに」っていうアンドリューの悲痛な叫びがうまれるのだと思いました。
マットにとっても、アンドリューをタレントショーでスターにしたスティーヴにとっても、「今、この瞬間を大切に」という気持ちがあるのですけれど、アンドリューにはそれを許容できなかったのだなぁと思います。
自分のタレントショーでの童貞を捨てるチャンスでの失敗も笑い話にはできなくて、語られてはいないけれど、マット、スティーヴとの距離ができてしまったんだと思います。
僕ら観客はアンドリューのビデオカメラを通して4人目として、彼ら3人を観てきたからこそ、余計に、アンドリューが目の前に差し伸べられている手(それは憐みから差し伸べられたものでは決してない)のに気が付かないまま、破滅へと向かって行ってしまったのを残念に思うのです。
友情でも愛情でもきっかけはどうあれ、それが本物だと信じられたら、それが全てなのだと思います。
最初のきっかけに拘ってしまったら、その時点であった差みたいなものはずっと埋められません。
若いアンドリューにはそれが気が付かなかった。
やっぱりそれは残念だなぁと思います。そしてその残念さこそが、自分自身も若いころ気が付かなかった事であり、人それぞれの心の痛みになるのだと思います。
アンドリューは僕でした。
そして、アンドリューは貴方でもあるのです。
願わくば、どんなに辛い時でも手は差し伸べられている事に気が付きますように。
そんな映画でした。観る価値は大いにあると思います。
『クロニクル』★★★
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