心のパンツは脱げるのか?

30代のおにー・・・おっさんが心のパンツを脱いで話しかけるよ。

(ネタバレあり)『桐島、部活やめるってよ』の感想

先日、もしも1人でもいいので、『桐島、部活やめるってよ』を観にいく人が増えたらいいなと思って、ネタバレなしのおすすめ文を書いたのですが、
お勧め映画 - 心のパンツは脱げるのか?
今日はネタバレを前提に僕の感想を書きたいと思います。

『桐島』については、見た人それぞれがいろんな感想を持つのじゃないかと思いました。
他の方の感想を見る前に、自分の気持ちを書いておきたいと思っています。

桐島とは何だったのか?

桐島、部活やめるってよ』という題名ですが、映画には『桐島』は出てきません。正確には『桐島』と認識される人物はいません。校舎の屋上や映画部がすれ違ったのが桐島なのかとは思いますが。
そんでもって、『やめるってよ』といいつつ、すでに辞めた後の金曜日から話ははじまっています。

そんな『桐島君』ですが、彼の存在は映画の舞台になった高校生活においての輝かしい象徴だったのだと思います。

学業優秀、スポーツ万能、可愛い?彼女がいる。誰とでも仲がよく、放課後は部活をしながら、彼女と帰宅部のイケメン達が彼と帰るのを待っていてくれている。

誰もがうらやむ高校生活を送っている。『桐島』

そんな彼が、その生活を放棄した事から、桐島がいることで成り立っていた、『桐島の』親友、友達、部活の仲間、彼女達から『桐島』が切り離された戸惑いや焦りが彼らの学生生活が崩れてゆきます。

『桐島』とは彼を中心とした調和のとれたイケてる高校生活だったのでしょう。

そして、映画では『桐島』を失った各登場人物と『桐島が最初からいない』登場人物が交差してゆきます。

『桐島』が最初からいない登場人物

映画部の前田(神木隆之介)をはじめとした面々や吹奏楽部の沢島(大後寿々花)達にとっては『桐島』を中心としたグループから離れているので、実際に『桐島がいなくなった世界』はあまり関係ありません。

映画でも彼らは彼らの世界で何かを成し遂げようと必死にがんばっています。

前田をはじめとした映画部の面々は自分達の撮りたい映画を。吹奏楽部の沢島は自分の恋心と部活動での部長との役割で揺れながら。

映画は『桐島を失った人々』と『桐島がはじめからいない人々』の世界がクライマックスに向けて収束されてゆきます。

クライマックス(屋上の対決)

『桐島、学校に来てるぞ!』
この情報が広まるや、『桐島を失った面々』は桐島を求め、桐島が調和してくれていた世界をもとめ、屋上に駆け上がります。

最初から分かっていた残酷な恋の結末を迎えながら、吹奏楽部の部長として演奏を凛とはじめる沢島を中心とした吹奏楽部の演奏をバックに、屋上では『生徒会・オブ・ザ・デット』を撮影する映画部の面々。その撮影を全く無視して駆け込んでくる『桐島を失った面々』

映画部の人々は『桐島がいた世界』の住人にとっては視界にも入らない存在です。映画撮影でメイクされたゾンビのように。

その他のクラスメイト。自分達の世界に入ってくる事もなければ害もない。それが前田であり、武文の存在なのです。

体育のサッカーの時間。ジャンケンでチームメンバーを選出していく時に一番最後に残る、期待されていない存在。
きっとDFあたりのポジションで、ボールも回ってこない。
見せ場はスローイング。

彼らのクラス内での状況がよく描写されているシーンだと思いました。

そんなゾンビのような彼らですが、映画撮影についてはひたむきです。
そして、そんなものは眼中にない『桐島を失い』屋上に探しにきた面々はその映画撮影を邪魔するのです。

チープなけれども映画部にとっては大切な隕石のオブジェをバレー部の副キャプテンに蹴飛ばされ、前田は牙をむくのです。
『謝れ』

前田達映画部は『桐島がいなくなった世界』に影響される事もなく、自分達のいる世界で自分達の好きなように映画を撮る。という戦いをしていました。
そこを邪魔しに来た『桐島を失った面々』に戦いを挑みます。クラスのゾンビが主役達に襲い掛かるのです。

結果的に映画部はボコられて、正座させられちゃうわけですが、このクライマックスがあるから、ラストシーンがより一層伝わるようになっていると思います。

宏樹とラストシーン

宏樹はイケメンでスポーツは何でもできて、野球部のユーレイ部員だけれど、キャプテンからは試合に来てくれとお願いされるような存在。
彼女もいる。桐島の親友。

多分ですが、劇中に登場しない桐島の存在を映しているのが宏樹という存在。

彼はラストシーンで屋上の決戦が終わった前田に話しかけ、ちょっとおどけながら「将来は映画監督?」と前田に聞きます。

前田からの答えは。

「多分、そうはならない」
「でも、好きなものと繋がっている」

そして、逆に前田から「君は?」と問われ、泣きそうになりながら「俺はいいよ」と去っていきます。

一見、うらやむような学生生活を送っている宏樹ですが、
「実は何もない」という現実に打ちのめされるだったのです。

宏樹は何でもできる反面、自分から何かしたい事がないのでしょう。
多分ですが、彼女の存在も自分から告白したわけではなく、彼女からのアプローチで付き合ったのだと思います。

宏樹が進路希望の紙を何もかけていないのも、暗にそれを示しているかと。

ラストシーンは『宏樹の視点』が映されます。

屋上にいるらしい『桐島』を目指すのに、仲間を校舎の入口で待っていた宏樹は野球部のキャプテンと鉢合わせになります。

そして、キャプテンに問います。
「キャプテンは3年で夏が過ぎたのに、なぜ引退しないのですか?」
キャプテンは答えます
「ドラフトが終わるまではね・・・」
コミカルなシーンでもあるのですが、とても深いです。キャプテンにはスカウトが来ているわけではありません。凡百な1人の高校球児です。
でも、彼にとっては「プロまで続く高校野球」という夢の決着がドラフトなのでしょう。
だから、それまでは、自分に指名がないと分かるまでは、彼は高校球児なのです。

そして、その話を聞いていたからこそ、前述した屋上の前田との邂逅につながります。

前田もまた「夢が叶うわけではない。でもその世界に繋がっている自分がいる」という気持ちをもって映画を撮っていました。

宏樹には確固たるものがありません。
キャプテンに試合の話をした時に宏樹は「次の試合・・・」と言いかけますが、キャプテンから「応援でいいから来てみてよ」と言われます。

多分。宏樹は特に大きな理由はなく、でも、桐島のいない世界の影響からか、「試合に行きます」と言おうとしたのではないでしょうか。
しかし、キャプテンからは応援でいいからさと言われてしまいます。

これは宏樹が積み重ねてきた結果なのですが、ここで宏樹には野球という居場所はなくなりました。

そんな中での屋上で前田がいっていた「俺達はここで戦っていくんだ」というセリフが旨に突き刺さるのでしょう。

ラストは屋上から校舎の外に出た宏樹が『桐島』に電話をかけますが、電話は繋がらないまま。映画はラストを迎えます。

『桐島』を失った宏樹は最後に桐島を求めたが、やはり応えてくれなかった。

そう解釈ができるのですが、僕はもう1つの見方があるかなと思いました。

ラストについて

桐島、部活やめるってよ』は明確な答えはない映画です。描写から学園生活を読み、自分で感じたものが観た人の数だけあると思います。

僕のラストの解釈の1つは前述した通りなのですが、もう1つあるかとは思っています。

それは、
桐島自身が自分が空っぽなのに気がついて部活を辞めたのではないか?
という事です。

宏樹は桐島を写しているのではないかと。
学業もスポーツも彼女の存在も何もかもあるようで、何もなかったから桐島は姿を消したのではないでしょうか?

だからこそ、宏樹はラストシーンで桐島に電話をかけ、こう言いたかったのではないでしょうか?

「俺も、お前もこの世界でがんばるしかねぇよ」と。

グランドでは野球部が部活をしています。それを宏樹が失ったものと見るか、また手に入れられるものと見るか。

主題歌である『陽はまた昇る』が流れるこのシーンでは、僕は「まだこれからチャンスがある」という風にも思えました。

僕は原作を未読ですし、劇中のセリフもきちんと覚えていないので、感想に書いたことは正確ではない部分が多々あるかと思います。それでも『桐島』を失った人達が個の自分に帰ったときに、いかに心細かったか。
そして、学校の主流ではない映画部の面々、野球部のキャプテンにあった、確固たる心の支えの力強さはとてもキラキラしているように感じました。

桐島、部活やめるってよ
いろんな方に観てもらって、いろんな意見を見てみたい。そんな映画でした。

ちょっとした事

映画館で前田がかすみに会った時に、前田がかすみに確認をとる事もなく、コーラを買って渡すところは上手だなぁと思いました。
そこは聞こうぜ!神木君!

かすみと竜汰が秘密で付き合っていた事が後半明らかになり、なかなかショッキングなシーンでしたが、これは映画の最初で竜汰のパーマが馬鹿にされた時に
「けっこう似合っているって言われたんだけれど」
「えー誰に?」
「・・・妹に」
というのが、実はかすみに言われていたのだと。そしてそれを公にできないから妹と誤魔化したのかと思うとなかなかどうして、そうだよなぁと思わせられました。

最後に

学校の主流ではないゾンビ達で思い出した小説と映画を紹介して終わります。
低偏差値の学校で町内からはゾンビのように思われつつ、世界を変えてやろうとした学生達の青春物語。

金城一紀著の『レボリューションno3』その続編でもある『フライ、ダディ、フライ』

「君達、世界を変えてみないか?」

桐島、部活やめるってよ』のアンサーではないかもしれませんが、イケテナイ学生達が光輝く物語です。最高なので、よかったら是非読んでみてください。

それでは。

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